放射第7号線 ライフ西側で街路築造工事開始!部分開通するか? 進捗状況2024.5

5月12日付で日テレニュースNNNの記事Yahoo!ニュースにも掲載され話題になっていました。コメント欄を見ると東京都が悪いように書かれているものが多いですが、いやいやと反論したいものも多いのでこのページで書きます。

以下に書くのはあくまでも都市計画道路と墓地の一般論としての考えであって、特定土地取引について意見を述べるものではありません。

まず大前提として、役所のやることは公平性が求められます。ある人だけ優遇したり、逆に冷遇することも許されません。また税金を使っている以上、その使い道は十分に考える必要があります。

都市計画道路とは

都市計画道路とは、都市計画法第11条によって定められるとされた都市施設の1つです。要するに「この都市計画を達成するために必要な施設」の1つで、道路以外には公園、河川、ごみ処理場なども決定されます。

時々「都市計画道路」「国・都道府県・区市町村道」「通り名(○○街道)」がごっちゃになっている人がいますが、都市計画道路は上記のもの、都道府県道は実際にある道路を管理するための番号や路線名(都道24号練馬所沢線など)、通り名(○○街道や○○通り)は一般の人にわかりやすくするために付けられた愛称のことです。

都市計画道路はまず都市計画決定がされます。この時点では道路の計画が決定しただけで道路は作り始めません。その後、都市計画事業として道路を作る場合には事業認可を取得し、そこから実際に用地の取得や工事が始まります。
この決定から事業化まで同じ年で行うこともありますし、50年、60年と事業化しないこともあります。ただ、その間は廃止をしない限り計画はずっと残り続けます。

放射第7号線は

国立公文書館蔵 1962年建設省告示第1772号

この都市計画道路放射第7号線の都市計画決定は1946年3月26日の戦災復興院告示第3号に基づくものです。「戦災復興院告示」や時期からも分かるように、戦後の復興に基づき計画されたもでした。

この当初決定(1946年)から現在までに13回の都市計画変更が行われて、ルートを延伸したり、変更したりして、現在の計画になっています。

大泉学園町付近の放射第7号線のルートは、1946年決定当時は現在とは異なり、大泉学園駅北側の泉街道をなぞるルート(現在の補助第156号線とほぼ同様のルート)でした。
それが1962年7月26日建設省告示第1772号によって現在の北園を経由するルートに都市計画変更されています。(これと同時に補助第156号線を現在のルートで決定)。
この時の図面(都市計画基本図)に寺院は記載がありますし、登記的にも寺院が先になります。

この1960年前後の期間は、日本全国で都市計画道路が決定された時期でした。東京都心のように関東大震災からの震災復興計画や、戦災復興で決定した古い都市計画道路も、この時期に大きく見直されました。多摩地域でもほぼすべての地域でこの時期に都市計画道路を決定しています。例えば、放射第7号線の西東京市側で続く都市計画道路(西東京3・4・14号新東京所沢線)も1967年に決定されています。※合併により前身の保谷都市計画道路として決定
そして、この時決定した都市計画道路のほとんどが現在も生きています。これがいいのかどうかの議論は別にありますし、近年は必要ないと認められたものは見直し(廃止)の方向に進んでいます。

さて、現在、都市計画道路は都道府県または(区)市町村が決定・変更する権限を持っています。これは現在の都市計画法(1969年6月14日施行)からで、旧都市計画法(それ以前)は国が権限を持っていました。すなわち、この放射第7号線も1962年の都市計画変更は国が行っています。
現在、都市計画を決定・変更しようとする際には、説明会の開催を行っているほか、公聴会の開催や、意見書の提出などが法律で定められています(都市計画法第16条、第17条など)。旧法では現在のような制度はなく、国が画一的に決めていたようです。
当時は戦時法制が残っていた関係もあり、これが有効なのかというような裁判は各地で起こされているようですが、有効との判断となっているようです。

では、都市計画決定するにあたって、墓地を避けるべきだったのかという議論ですが、これはYahoo!ニュースのコメント欄では意見が分かれていたように思います。
個人的には墓地程度では考慮に入れないのが普通かなと思います。川や地形の関係で避ける場合には皆納得がいくでしょうが、例えばそこの有力者の土地を避けたりしたらどうか、避けたがために掛かった人は堪ったものではありません。仮に堅牢な建物があって避けた方が経済的にも合理的な場合は避けている例は近年チラホラ見かけますが、墓地程度なら日本全国多くの場所で立ち退きをしていますし、公平性の観点からも墓地程度では考慮に入れないのかなと思います。

事業化前に都市計画変更することも可能ではあります。しかし、事業認可の時点で都市計画決定から50年近く経過しています。都市計画道路がかかっていると木造2階建て以下(最近になって3階建て以下に緩和)等の建築物しか建てられないなどの建築制限がかかります。将来道路ができることを担保に制限が掛けられていたものが、50年経って「ルート変えるので制限はなかったことに……」などというのは堪ったものではありません。そして墓地があるから変更しますというのは、墓地だけ優遇するのは明らかに不公平です。

ちなみに、近年新しく都市計画決定する都市計画道路は、複数案を提示したり、PI(パブリック・インボルブメント)により住民の意見を聞く事例も出てきています。これはある種の時代の流れでもあると思います。
ただ、放射第7号線のようにこれだけ市街化した場所で話し合いで全員が納得するルートを決めることは極めて困難ですし、良くも悪くも旧法下で決定した計画が有効である以上、それを使わざるを得ず、別のルートを引くことは困難だと思います。これは今後の都市計画行政の課題となっていくでしょう。

用地買収

今回の土地の場合、都市計画道路に掛からない墓地があります。Yahoo!ニュースや2月11日放送BS-TBS「噂の!東京マガジン」によると、この掛からない部分の買収を巡ってもめているような報道があります。

道路事業や街路事業の公共用地の取得で、事業用地に掛からない土地(残地)は、日本全国どこの役所でも基本的に用地取得しません

「基本的に」というのは、残地が著しく小さいなど利用価値がない場合などに限られます。土地収用法においても「第七十条 同一の土地所有者に属する一団の土地の一部を収用することに因つて、残地を従来利用していた目的に供することが著しく困難となるときは、土地所有者は、その全部の収用を請求することができる。」と規定されています。

仮に1つの場所だけ特別扱いして取得すると「あそこはやってくれたのに…」と用地行政が破綻します。また、事業の目的と関係のない土地を税金をもって買収することは、納税者も黙っていません。

また、残地によってその土地の利用価値が下がるような場合には、「残地補償」といって金銭で補償が出ます。(第七十四条 一の土地所有者に属する一団の土地の一部を収用し、又は使用することに因つて、残地の価格が減じ、その他残地に関して損失が生ずるときは、その損失を補償しなければならない。)

この土地の場合、どのような交渉がされているのかわかりませんし述べるつもりもありませんが、隣接地において土地区画整理事業をして東京都が取得した土地があります。この土地の利用方法について公式の発表はありませんが、面積等から代替地と見られ、ここまでやるのは東京都はやっている方だと思います。(各自治体の資料を見る限りほとんどの自治体において、基本的に代替地は土地所有者が見つけるものとしています)

都市計画事業として事業認可を取得した場合、土地収用法の規定が適用されますが、用地の取得は基本的に話し合いで契約します。話し合いで解決できない場合には、土地収用法の規定により収用裁決の手続きを行います。それでも土地の引き渡しがない場合は、代執行がなされます。
憲法で財産権を保証している以上、いきなり収用はできず、手順を踏んでいくことになります。それと同時に憲法では、正当な補償の下に、これを公共のために用いることができるとされています。
なお、放射第7号線は2006年7月24日に事業認可を受けています。

収用といえど、墓地の収用では佐倉市の「志津霊園問題」が有名ですが、これは民事的な問題もはらんでいるので単純比較はできませんが、墓地はかなり面倒臭いのは確かなようです。

それと、よくトンネルを掘ったり上を橋で通したりすればいいという意見も目にしますが、確かに千駄ヶ谷トンネルなどで例があり、みなが納得する合理的な理由があればいいかもしれませんが、公平性の観点からそれも墓地だけ特別扱いしているようにも見えます。また、区分地上権の設定等、用地取得と同等の事務が必要となるはずです。
トンネルの場合、このような地形の場合開削トンネルとなりますから、一度墓地等を移設し工事をすることになるほか、スロープ部ができることにより都市計画道路にアクセスしにくくなり、スロープ部を設けることによりその部分のアクセスができなくなるため副道を設ける必要が生じ、新たに都市計画道路に掛かる土地が出てくる可能性があります。(副道は橋梁も同様)

個人的には、都は極めて通常の手続きをしているだけで、都が悪いというのはうーん…と、感じます。もしかすると、今後何らかの条件に公平的で合理的な理由をもって残地買収を進めることがあるかもしれませんが、そこが職員の腕の見せ所になるかもしれません。

その他の手法の例

道路事業や街路事業の場合、事業用地以外は基本的に買収しないのはすべた述べた通りです。そうなると買収されない残地に対する不満から用地交渉が進まないことはここに限らず少なくないと聞いたことがあります。また、小さな土地や不整形な土地が残ると、まちづくりの観点からもあまり好ましくありません。

そこで最近では、極めて小規模な土地区画整理事業を行ったり、沿道整備街路事業のような手法もでき、活用する取り組みが都市部を中心に少しずつ事例が増えてきています。

沿道整備街路事業関係ガイドラインから抜粋

練馬区内でも、上石神井四丁目の一部で、外環の2整備に伴う沿道整備街路事業が行われているようです。

改めて、上記はあくまでも都市計画道路と墓地の一般論としての考えであって、特定土地の取引について意見を述べるものではありません。

2024年5月13日23時頃沿道整備街路事業について追記

コメント

  1. 匿名 より:

    2ページ目以降の、法律に基づいた中立的な記載は大変参考になりました。
    ありがとうございました。
    私もヤフコメの感情的な意見や、そもそもトップにあるジャーナリストの的はずれな意見に辟易していたところでした。
    ヤフコメでは残地も一括で買わないととか、アンダーorオーバーパスにしないととか意見がありましたが、問題の本質に踏み込んだ意見がなかった中でこちらの記事は大変公平的な目線で問題を見ることができると思います。

  2. 寝ぼけ熊 より:

    いつも貴重な情報を提供願い大変ありがとうございます。住職のインタビューを聞き問題の難しさがわかりました。
    墓地を移転しようにも墓の跡地を買う人は無く価格も付かないでしょう。 公平な取り扱いでも土地の特性を考慮して防災施設や公園などに公的買収するしか無いのでは?
    共用の遅れによる便益損失を避けるべきだと思います。

    • yunomi-chawan yunomi-chawan より:

      買収すると墓地は無くなってしまいますから、まとまった代替地をどうするかがポイントになるのかと思います。
      隣接する東京都の土地は、都市計画道路と北側残地の墓地を合わせた面積よりも狭く、『噂の!東京マガジン』ではそれが難色のような報道もされていました。

      公園などの公共施設として整備するのも手で、上記の代替地を確保するには、隣接地権者の協力が不可欠ですが、たとえば沿道整備街路事業や極めて小規模な土地区画整理事業を起こし、用地買収ではなく換地処分により道路用地を取得しつつ、墓地も移転するというのも1つの手段ではないかと思います。

      参考
      沿道整備街路事業ガイダンス-国土交通省
      https://www.mlit.go.jp/toshi/crd_gairo_tk_000014.html

  3. RON より:

    毎回、現地を自分の足で確認し、取材、撮影、前回から変化点、貴殿の的確な考察を公平な立場での見解に感心して、いつも楽しく拝見させて頂いております。

    まずはともあれ、ライフ西側からの部分開放に向けた工事が始まりそうで、少しは前進した事に安堵しております。来春、部分開放時にはまた取材をお願いたいと思う次第です。

    道路計画に掛かっていない(と思われる)本堂(残地)の保証(本堂建て替え費用)も、お寺側は墓とSETで要求しているようですが、妥当な要求と言えるのでしょうか?

    • yunomi-chawan yunomi-chawan より:

      公共用地の取得を生業にしているわけでも、専門家でもないため、詳細は分かりかねます。
      以下に基準を紹介します。

      公共用地の取得に伴う損失補償基準
      (建物等の移転料)
      第28条 土地等の取得又は土地等の使用に係る土地等に建物等(立木を除く。以下この条から第30条まで及び第42条の2において同じ。)で取得せず、又は使用しないものがあるときは、当該建物等を通常妥当と認められる移転先に、通常妥当と認められる移転方法によって移転するのに要する費用を補償するものとする。この場合において、建物等が分割されることとなり、その全部を移転しなければ従来利用していた目的に供することが著しく困難となるときは、当該建物等の所有者の請求により、当該建物等の全部を移転するのに要する費用を補償するものとする。
      https://www.mlit.go.jp/common/001338606.pdf

      また、公共用地の取得に伴う損失補償基準細則の第15にも細かい記載があるので参照ください。
      https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/content/001397834.pdf

      道路予定地に掛かっているか否かはわかりかねます。

  4. 匿名 より:

    航空写真を見ると本堂の屋根が歩道の一部にかかりそうに見えるので補償されるのでは?

  5. 元いち区民より より:

    yunomi-chawanさん、いつも詳細な現状調査、解説ありがとうございます。

    (yunomi-chawanさんの言う通り)
    一般的に考えるなら部分開通させると副作用が大きいと思われる場合でも、
    大手メディアに取り上げられたり、
    その影響か何かで都議会・区議会議員等から
    (長谷川岳参議院議員みたいに)怒鳴られたりすると、
    東京都建設局の職員は、ほぼ突貫工事で部分開通させたりするのでしょうかね。
    もしそういう事なら…
    (yunomi-chawanさんの言う通り)
    お役所の職員は、法律・条令や職権の範囲内で、
    しっかり仕事をしている結果として、現在の状況が発生している。
    そういう難しい問題を解決するために政治があるのではないか。
    東京都や練馬区の政治家で、この件に関して汗をかいている人がいるのでしょうか。
    単に「東京都のやり方が悪い」だけでなく、
    東京都の職員が無能なのか、東京都の政治家が無関心なのか、を別けて考える必要があるでしょう。
    近隣住民としては選挙で意志し示す必要があるでしょう。

    • yunomi-chawan yunomi-chawan より:

      練馬区議会や都議会でこの件を検索してもあまりヒットしません。
      あくまで東京都と個人(法人)の個別の契約の話ですから、政治的に突っ込む話ではないと私は思います。

  6. 元いち区民より より:

    追記、
    「志津霊園問題」では、市長が最高責任者として政治責任をとり辞任するに至ってます。

  7. maxbarrage より:

    親戚に寺関係が多いので何点か。
    寺所有の墓所が寺から離れた位置にあるのはごく普通にあります。
    代替地がどの程度現在位置から離れているのかは不明ですが、
    対象墓地のみの移転ができるならそれで賄えると思いますが水道工事や小規模な管理建物と
    駐車スペースまでを考慮した内容なら総代会を通じて檀家の了承を得やすいと思います。
    道路を挟んで残る墓所ですが公安委員会と協議して横断歩道などで対応できれば尚良いと思います。
    ちなみに現代において新たに墓地を作るのは自治体によって差はありますが住宅が立て込んでいる地域では了承を得る対象住民が膨大となりかなり難しいです(というより不可能)。
    都が用意できたというのは周辺同意を得た土地なのかが気になります。

    • yunomi-chawan yunomi-chawan より:

      代替地かどうかは公式の発表がないのでわかりませんが、隣接した土地に、共同施行で施行した土地区画整理事業が完了後、東京都が別の個人から買収した土地が2筆あります。(登記簿による情報)

      なお、広報看板によると、この東側の区道が横断する部分に、信号機のついた横断歩道が設置される計画です。

      ※撮影日が古いので事業期間が異なることにご注意ください。

  8. 大泉地元民 より:

    地元民ですが詳細な情報ありがとうございます。
    ライフまで道路ができるのとても楽しみです。
    最近テレビで急に何件も取り扱われて今後動きがあるか注目です。

    あと地図も非常に詳細で分かりやすいのですが主様が書かれているのでしょうか?
    どういうソフト使われているとか教えて下さると幸いです。

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