稲城若葉台 LED化で変わる夜景 当初の計画が参照されない悲しみ

多摩ニュータウン稲城若葉台の街路灯がLEDに更新されています。

3月某日 若葉台駅前広場にて

これは稲城市のすべての街路灯をLEDに更新する工事の一環で、若葉台地区も当然更新が行われています。(防犯灯は2013年に完了)

こうした全部の街路灯をLEDに更新するのは稲城市だけでなく、近隣では町田市や川崎市でも実施されています。

稲城市に経緯と理由を問い合わせたところ、 次のような回答がありました。

水銀灯の製造、輸出入が2021年より禁止になることから、市内の街路灯をすべて環境負荷が少なく長寿命であるLEDに交換することとした

既にメーカーでは蛍光灯器具の生産を終了していたり、「水銀に関する水俣条約」が締結されたりと、照明をLED化するのは至極当然のことであり、このことには何ら異論はありません。

2019年4月
2020年3月

LED化によって若葉台の夜景はこのように変わりました。暖色系から白色に変わったのは一目瞭然です。

街路灯だけでなく、一部商業施設の駐車場照明もLED化されました。

『街づくり計画書』

まちびらき20周年を記念して掲げられたフラッグ

ところで、多摩ニュータウン若葉台地区1999年にまちびらきしました。昨年がまちびらきからちょうど20年でした。

多摩ニュータウン若葉台地区は現在の独立行政法人都市再生機構(UR都市機構)(日本住宅公団→住宅・都市整備公団→都市基盤整備公団)が、新住宅市街地開発事業という手法を用いて開発した地区です。新住宅市街地開発事業というのは全面買収方式の事業で、いわば一からまちづくりを行うことができ、様々な検討のもと現在の若葉台が形作られました。

「若葉台」という都市をデザインする中で、そのデザインの1つ「照明」についてもかなり念入りに検討がされたようです。

『多摩ニュータウン 若葉台地区 街づくり計画書』の表紙

上の画像の『多摩ニュータウン 若葉台地区 街づくり計画書』(以下、「計画書」)の表紙です。多摩市の図書館でコピーしてきたものです。

この冒頭には「はじめに」としてこのようなことが書かれています。

はじめに

 ファインヒルいなぎ若葉台は、平成11年3月の街びらきから約2年が経過している。

 街びらきを行うにあたり、街びらきを円滑かつ調和のとれた景観形成を図ることを目的とした設計調整会議やデザイン会議などをもとに計画情報を集約した「若葉台街づくり計画書」が作成された。

 本「若葉台街づくり計画書」は、その改訂版として竣工された各施設についてはその写真等を使用し記録として改正し、現在計画中の施設については整備計画を追加し、最新の若葉台街づくりの計画情報として集約化するとともに、今後の整備指針として更なる活用することを目的としている。

(後略)

多摩ニュータウン 若葉台地区 街づくり計画書

注:「ファインヒルいなぎ」とは稲城市内の多摩ニュータウン区域=向陽台、長峰、若葉台地区のことです。昔(多摩ニュータウンの住宅売り出しが盛んだったころ)はよく耳にしたような気がするのですが、最近では一部の住戸名にある程度で、ほとんど聞かなくなってしまいました。

要するにこの『計画書』はまちづくりのデザインの指針です。

『計画書』より抜粋

たとえば、このようにゾーンの計画から色彩まで、こと細かく検討されていたことがよくわかります。

『計画書』のうち照明計画のページ

照明計画」のページでは、街区全体の方針として、 このように記述されています。

  • 温かみのある光色の光を中心とし雰囲気の向上を図る。
  • 三住区全体としてまとまりがあり、その中で3エリアに穏やかな変化を持たせる。
  • 照明器具の反射鏡によって光を制御し上方配光をなくすことによって光公害のない街づくりをする。
  • 照明器具自体が光るのではなく、ストリートファニチュアなどの対象を明るく見せる。

また、 さらに細かく、道路や街区によって光源の種類や照度、配置、間隔までかなり細かく計画されています。

多摩ニュータウン B-6地区 3住区 基盤施設デザイン計画策定業務 報告書

また、別の冊子、『多摩ニュータウン B-6 3住区 基盤施設デザイン計画策定業務 報告書』には、数度にわたってデザイン会議が行われたことが書かれており、照明だけでもこんだけのページが割かれていました。

ただ、上の『計画書』は地区計画のように法的拘束力があるわけではなく、現:UR都市機構も2006年に多摩ニュータウン事業を終了しています。

街路灯のLED化で『計画書』は参照されたのか

冒頭で書いたように、若葉台地区では街路灯のLED化が行われています。

白色のLEDの色は、『計画書』で「温かみのある光色の光」として計画されたものとは全く異なる光です。

では、街路灯の更新にあたって『計画書』は参照されたのでしょうか。稲城市に問い合わせたところ次のような回答がありました。

今回のLED化はランプのみの交換を前提として行っており、照度も既存のランプと同等のものを考えております。ゆえに計画書を参照し、LED化をおこなっているものではございません。状況により灯具全体を交換する場合は、既存のものに近いものを選定し、交換するよう努めております。

参照されていませんでした。

既に書いたように、私自身LED化は全く反対ではありません。逆に、メタルハライドランプを同じもので交換するようなことは時代の流れに逆らうことになるでしょう。
「既存のものに近いものを選定」とのことではありますが、先人の方々が念入りに検討してまちづくりをしてきたものが参照されずに更新されていくのは、どこか寂しい気持ちもあり、残念です。

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